胚の凍結保存・融解胚移植

配偶子・胚の凍結保存と融解配偶子・胚を用いた胚移植について

 わが国では体外受精・胚移植や顕微授精の治療において、多胎妊娠を防止するため、日本産科婦人科学会は移植胚数を原則1個とすると勧告しています。そのため、受精卵が数多く得られた場合、胚移植後にも移植しない胚が生じることがあります。その場合、次回の治療のために胚を凍結して保存することができます。わが国においては、受精卵の凍結・融解胚移植により年間約36,000人以上の児が誕生しており、その有益性はほぼ確立されています。また、高度の乏精子症のご夫婦では、治療以前に精子を用手的または精巣より採取し、有効精子が存在する場合は凍結保存し、後の治療の際に融解し媒精に用いることがあります。なお、配偶子・胚の凍結保存、融解胚移植を受けることができるのは、婚姻しているご夫婦に限らせていただきます。

対象
通常の体外受精ならびに顕微授精にて受精卵が得られ、胚(胚盤胞)を有するご夫婦が対象となります。 また、顕微授精の際に有効な精子の採取ができないこと等が想定される方に、顕微授精の治療の前に精子を採取して保存しておく必要のあるご夫婦も対象となります。
利点
a、移植胚数の制限につながるため、多胎防止になる
b、排卵誘発剤(特にクロミッド)を用いた周期では子宮内膜環境(着床環境)が
  悪い場合があるため
c、次のチャレンジの際、採卵までの過程を省略できる

凍結保存は技術的には半永久的に可能ですが、一定期間ごとに更新手続きをとっていただきます。更新手続きが一定期間以上とられない場合は廃棄をせざるを得ないこともあります。詳細は4.をご参照ください。
方法
配偶子・胚の凍結のスケジュール
1)通常の媒精あるいは顕微授精にて受精の有無を確認し、受精卵は引き続き培養します。凍結を行う時期としては、前核期・2~ 8細胞期・桑実胚あるいは胚盤胞期すべての時期で可能です。当院では凍結を行う時期は原則として胚盤胞期としています。

2) 胚の凍結の方法としては、超急速凍結法(ガラス化法)を用います。この方法は、プログラムフリーザーを用いる緩慢凍結法とは異なり、特殊な器械を必要としません。具体的には、高濃度の凍結保護剤( 高濃度のエチレングリコール、ショ糖、フィコール )を含む溶液中に卵子・胚を濃縮した後、液体窒素内に保存する方法です。

3)精子の凍結保存は、精子凍結専用の凍結保護剤と平衡させた後、緩慢的に温度を下げ、最終的には液体窒素内に保存します。

4)胚の融解方法は、急速融解法を用います。液体窒素内から常温へ急速に移し、胚の融解用に調整した培養液中で融解操作を行います。精子の融解の場合は、緩慢融解を行い、精子の性状により融解後、体外受精または顕微授精を行います。

5)胚(胚盤胞)移植は、自然周期を利用して移植する方法と人工周期(ホルモン補充周期)を用いて移植する方法があります。

6)凍結融解後に変性した胚の取扱いは当院に一任していただきます。
保存
1)凍結胚・凍結精子の保存期間は原則5年とし、6ヶ月毎に保存の意志を確認し、保存期間の延長を希望される場合は、その意思をお知らせいただくとともに保存に関する費用をお支払いいただきます。廃棄を希望される場合は、廃棄の意志が確認できた日までの費用をお支払いいただきます。

2) 保存期間中にご夫婦のどちらか一方が死亡もしくは行方不明になった場合、どちらか一方が廃棄を希望した場合、離婚された場合、さらに女性が生殖年齢を超えた場合、凍結胚は廃棄の対象となります。凍結精子は、当該男性が死亡した場合、廃棄の対象となります。
上記の場合、「廃棄に関する同意書」に署名していただく必要があります。また、住所・連絡先等の変更あった場合もご連絡下さい。連絡がつかず6ヶ月毎の凍結保存の意思が確認できない場合は、廃棄の対象となります。

3)ご夫婦共に死亡もしくは行方不明になった場合は当人の了解を得ることなく廃棄いたします。
リスク
凍結・融解の操作の過程で、一部の胚は破損することがあり得ますが、胚の凍結の場合、融解後の損傷率は当院では1%以下となっております。精子の場合は、凍結融解後の運動精子数は原精液の50%程度まで低下すると予想されます。
凍結融解後の胚にも、凍結せずに胚移植した胚と同じだけのリスクはありますが、凍結・融解それ自体が、この方法で出生した児に特に影響を及ぼしたという報告はありません。しかし、凍結融解で出生した児の長期予後については、いまだ確定していません。このことより、今後もこの方法で出生した児の長期の経過観察が必要です。
補償
凍結保存していた胚および精子が、天災など予期せぬ事情(地震、火災、閉院など)により、使用不可能になった場合は依頼者がそれまでに支払った凍結保存料を弁済いたします。それ以上の補償に関しては対応いたしかねます。また、諸事情により、当院担当医師による移植が困難になった場合は連携施設よりの医師の派遣ができる態勢を整えています。

凍結保存に関した治療経過の情報は匿名性を保った上で解析あるいは報告することがあることをご了解ください。また、これらのデータを学会へ報告する義務がありますが、同様に個人情報は保護されています。