体外受精


生殖補助医療とは

 体外受精―胚移植など生殖に関わる技術を総称して生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)と呼びます。1978年に体外受精―胚移植が不妊症の治療法として登場し、イギリスで体外受精児第1号が誕生したところに始まります。以来、体外受精―胚移植の技術の改善や関連した新しい技術が次々と開発され、不妊症の治療法は飛躍的に発展しました。
 日本では1982年から体外受精―胚移植が臨床応用され、現在では大病院から一般の診療所まで幅広く行われています。生殖補助医療は難治性不妊症に対する重要な治療法として位置付けられています。体外受精―胚移植は、卵子・精子を体外へ取り出し受精させ、受精した卵( 胚 )を子宮内に移植して妊娠させようという方法です。


体外受精-胚移植の適応

)卵管不妊
卵管切除後 、卵管閉塞、卵管形成術が不可能な場合など
)子宮内膜症性不妊
骨盤内癒着や卵巣チョコレート嚢胞の形成など
)男性不妊
乏精子症(数が少ない)や精子無力症(運動率が低い)など
)免疫不妊
抗精子抗体陽性により体内での受精が妨げられている場合など
)原因不明不妊(機能性不妊)

体外受精-胚移植の方法

卵巣刺激後の成熟卵胞を穿刺吸引して卵子を採取( 採卵 )し、夫から採取した精子と培養液中で受精させ( 体外受精 ) 、一定期間の培養の後に、受精した卵の分割発育を確認して、その受精卵( 胚 )を子宮内にもどします ( 胚移植 ) 。

排卵誘発法
管理法には非刺激周期、低刺激周期、刺激周期の3つがあります。当院では、より質の高い卵を採取するために、低刺激周期採卵を基本としながらも、個々の状態に合わせ治療をアレンジしています。

A.自然周期
原則的に排卵誘発剤を使わずに発育してくる卵胞(ほとんどの場合は1個)より採卵をする方法です。本来自然に排卵するべく発育してきた卵胞より採卵しますので、質の高い卵子が回収されることも多いです。一方、回収された卵子が受精・分割の途中で発育を停止した場合はその周期がキャンセルとなりますし、予期しない排卵が起こるために採卵ができないこともあり得ます。

B.低刺激周期
排卵誘発剤の錠剤を内服していただきながら、少量の排卵誘発剤の注射を併用することにより発育してくる卵胞から卵子を採取します。通常、 採卵できる数は1~3個程度です。排卵誘発剤の大量かつ連日の注射や、GnRHa( スプレキュアスプレーなど)の併用(連日の使用)は行いません。排卵誘発剤の注射を大量に使用することが無いため体への負担が少なく、したがって採卵を毎周期続けていくことも可能です。自然の排卵を抑えていない可能性もあるため、 採卵のタイミングを見つけることがやや難しいという欠点がありますが、ホルモン検査(採血)によって予期しない排卵はほとんどの場合回避されます。

C.刺激周期
排卵誘発剤の比較的大量の連日注射を行い、多数の卵胞を発育させる方法を総称して刺激周期といいます。 GnRHa(スプレキュアスプレーなど)を併用して排卵を抑えることが多く、1回に多数の卵子が採取できます。排卵誘発剤の注射は最低でも5日間、平均7~10日間必要です。通常は1回排卵誘発を行うと1~2周期ほど治療を休む必要があります。
採卵
経膣超音波ガイド下に卵胞を穿刺し、卵子を採取します。穿刺針はかなり細いものを使用していますので痛みも少ない上に副作用もほとんどありません。採卵時には麻酔(静脈麻酔か局所麻酔)を行います。
卵の前培養
卵胞液から顕微鏡下に卵子を探し、培養液に移します。培養器の中で数時間培養し、成熟を待って、受精に備えます。
精子の採取・媒精
採卵当日朝に精液を提出(専用容器使用)していただきます。ご希望により採精室の使用が可能です。約2時間かけて精液を処理し、運動良好な精子を回収します。 午後に精子と卵子を一緒にして(媒精)受精を促します。
顕微授精についてはこちらを参照してください。
受精卵の培養
翌日(1日目)朝、受精の有無を確認します。
順調な発育は次の通りです。
1日目:前核期
2日目:2-4細胞期
3日目:8-16細胞期
4日目:桑実胚
5~6日目:胚盤胞 (胞胚)
受精卵(胚)の移植日の決定
2日目か3日目に移植する初期胚移植と、5~6日目まで発育させた胚盤胞移植があります。胚盤胞まで発育させることができれば、着床率が高いといわれており、受精卵の約50%程度が胚盤胞まで発育します。
移植胚の数
日本産科婦人科学会の見解に基づき、初期胚・胚盤胞のいずれの場合も原則として1個の胚を移植します。一定の条件のもとに2胚移植を許容することができる事も併記されておりますが、当院ではできうる限り1胚移植を行うこととしています。
アシステッドハッチング
卵子の外側には透明帯という膜があります。着床しやすくなることを期待して、移植前に透明帯の一部にスリット(溝)をあける方法です。当院ではレーザーアシステッドハッチングを行っています。
胚移植
当院では子宮内膜や頚管の状態によりこの2法を使い分けております。

1)頚管的子宮内胚移植法(TCET:transcervical embryo transfer)
子宮頚管よりカテーテルを挿入して移植を行います。当院では、経膣超音波ガイド下にて行うことにより、 より至適な位置に胚(胚盤胞)を移植することが可能です。ほとんどすべての場合に適用されますが、時にカテーテルが挿入しづらい(できない)ことがあります。

2)トワコウ法[The Towako method ]  (Transvaginal-transmyometrial embryo transfer)
経膣超音波ガイド下に特製の胚移植用カテーテル(トワコウ針)を子宮内膜にめがけて穿刺し、胚移植を行います。超音波で子宮の内膜が見え、針を刺す方向に障害物が無ければこの方法が適用できます。
妊娠の判定まで
採卵日から計算して14~15日目に、最初の妊娠判定(血液検査も含め)を行います。移植から妊娠判定までは黄体ホルモンの補充をしながら、1~3回の通院(個々によって違いますが採血や注射)が必要です。


連続観察培養システムについて

連続観察培養システムとは、受精卵の成長過程を一定間隔で写真を撮影し、その写真を連続的に見ることで、動画のように観察する新しいシステムです。
これまでは、観察時に一旦培養器から取り出し、顕微鏡で観察した後、再び培養器に戻すという作業を行っていました。培養器から取り出すことで、ストレスを受精卵に与える可能性がありました。培養器から取り出す必要がないため、温度変化など環境の変化によるストレスを減少させることが可能となりました。また、受精卵の成長過程を解析することで、より妊娠率の高い良好胚の選択に役立てることもできます。



* 体外受精-胚移植における問題点

a、卵巣過剰刺激症候群 (ovarian hyperstimulation syndrome:OHSS)
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は排卵誘発(特にHMGの連続注射の周期)に伴って生じます。軽~中等症では経過観察で良くなりますが、重症化すると腹水・胸水が貯留し、血液濃縮が進むと同時に血栓症(脳梗塞、心筋梗塞など)を起こすこともあり適切な管理が必要です。

b、妊娠予後
妊娠反応が陽性であっても、多胎・流産・子宮外妊娠があり得るため、妊娠の状況を慎重に見極めなければなりません。また、妊娠をした場合の児に対する問題点は、自然妊娠の場合と変わりませんが、流産率はやや高い傾向にあります。また、自然妊娠の場合と同じ程度の奇形・異常の発生がみられています。 したがって長期の経過観察が必要とされています。

c、児の遺伝的リスク
男性因子例のなかには夫が染色体異常や造精機能関連遺伝子の異常を持っている場合があり、乏精子症や無精子症では、男性に染色体異常や造精機能に関わる遺伝子群の異常が認められることがあります。造精機能関連遺伝子はY染色体上に発見されましたが、現在では常染色体にも存在することがわかり、全容を把握するには至っていません。Y染色体上のDAZ遺伝子の異常(欠失)は臨床検査として実施可能で、異常が存在すれば男児には確実に伝承され、将来父親と同じ形質を発現する可能性があります。よって、高度の乏精予症や無精子症例では、事前に染色体検査や遺伝子検査を受けて子孫が負う遺伝的リスクの有無を認識することが好ましいとされています。


費用

体外受精は保険医療では認められていませんので、自費負担になります。治療法には個人差がありますので、同じような治療法でも支払い額が異なることがあります。


体外受精に関する規約

体外受精は日本産科婦人科学会および当院の内規に基づいた体外受精倫理規定に従って行われます。本法に従事する者は、守秘義務に十分留意いたします。治療経過情報を解析、あるいは報告、発表することがありますが、匿名性を保った上で行われ、個人情報は保護されています。また、これらのデータを学会へ報告する義務がありますが、同様に個人情報は保護されています。


附記〈併用療法〉

  • 子宮内膜症や子宮筋腫があり、不妊の原因または治療の妨げになっていると思われる症例は、腹腔鏡下手術等を行っている施設に紹介しています。
  • 当院では生殖補助医療をサポートする治療として、遠赤外線治療、低反応レベルレーザー治療(low-reactive level lesar therapy;LLLT)を取り入れています。遠赤外線治療は太陽光線の一種である遠赤外線を利用した治療法です。からだの深部まで浸透し、内側から温めることによって子宮および卵巣の血行改善、卵胞の発育促進にも効果があると考えています。低反応レベルレーザー治療は細胞や組織を破壊する「外科的レーザー治療」とは 異なり、からだを傷つけることのない弱いレーザーが使われています。皮膚の表面だけではなく細胞内にまで届くことで、新陳代謝を活発にし、血行の改善、組織の活性化につながると考えています。腹部だけでなく頚部にも照射することにより、脳の血行を改善し、脳下垂体から分泌されるホルモン(FSH・LH)をスムーズに卵巣に届ける効果が期待できます。生殖補助医療だけではなく妊娠に関係する箇所の血行改善も必要な要素だと考えています。